本セッションでは、成人アレルギー診療の最前線の報告に続き、研究者・患者団体・産業界・行政がそれぞれの立場から患者・市民参画(PPIE)の現在地を論じ、その成果として6項目の国際提言が取りまとめられました。気候変動や環境変化と不可分でありながら、世界人口の多くが抱えるコモンディジーズでもあるアレルギー疾患を取り上げることで、プラネタリーヘルスの文脈における患者・市民参画のあり方が議論されました。
気候変動と不可分な「プラネタリーヘルス課題」としてのアレルギー疾患
アレルギー疾患は、世界人口の相当数が抱える身近な疾患(コモンディジーズ)であると同時に、花粉飛散期間の延長、大気汚染、食生活と食料システムの変化、生物多様性の喪失といった地球規模の環境変化と不可分な、プラネタリーヘルスの課題でもあります。
本セッションの前半では、キク科植物による光アレルギー性皮膚炎、花粉感作の先行のない幼児期リンゴアレルギー、製パン作業者のBaker’s asthmaと経口小麦アレルギーの合併例という3件の症例が報告されました。いずれも診断の鍵を握ったのは、植物・食物・職業環境への曝露歴であり、それは患者本人が語る生活の情報なしには得られないものでした。環境の変化を最初に感知するのは患者であり、その知見を研究と医療に取り込む仕組みこそが、患者・市民参画(PPIE)にほかなりません。
有病率が高く、患者が広く分散し、生活と環境のあらゆる場面に課題が及ぶアレルギー領域は、PPIEの難所を凝縮すると同時に、他の疾患領域に応用可能なモデルを提供しうる領域でもあります。
全国調査が示した「信頼されているが、届いていない」情報基盤
セッションでは、2026年2~3月に実施された全国調査の結果が報告されました。アレルギー領域とがん領域、医療従事者と患者団体を比較するデザインで、全国アレルギー疾患医療拠点病院79施設および協議会加盟団体を対象に実施され、有効回答は173件でした。速報値として示された主な知見は次のとおりです。
・公的情報プラットフォームは、信頼性がすべての群で最も高く評価された一方、検索性の評価は最も低いという結果でした。信頼されていながら、必要な人が必要な情報に到達できていない実態が示されました。
・PPIE(患者・市民参画)に関する情報は、そもそも掲載されていません。医療従事者およびアレルギ―患者団体の大半が「得たことがない」と回答した一方、ほぼすべての回答者が掲載を希望しました。求められた水準は、用語解説ではなく事例集・実践ツールキット以上でした。
・唯一の例外は、患者諮問パネルを備えるがん情報サービスに到達していたがん患者団体でした。情報
に到達できていたのは、その基盤の「つくり手」に入っていた人々でした。
ここから、情報共有の課題は「どう作るか」ではなく「誰と作るか」の問題である、という論点が提示されました。なお本調査の詳細は、別途学術論文として報告される予定です。
2つの問いをめぐるパネルディスカッション
後半のパネルディスカッションは、2つの問いに沿って行われました。
「PPIEは誰のためのものか」という問いに対し、登壇者の答えは、患者のため・医療者のため・産業界のため・社会のため・研究者のためと分かれました。これらは対立するものではなく、PPIEの便益が単一の受益者に帰属しないことを示しています。
「PPIE推進に向けた情報共有はなぜ難しいのか」という問いでは、対象の広さと多様性、コストと安全性、企業における開示可能性の制約、仕組みの不足が挙げられ、困難の所在が個々の当事者の意欲ではなく、基盤と仕組みの側にあるという認識に収斂しました。
総括 ― 「中心」から、共に歩むパートナーシップへ
議論の締めくくりでは、「Patient-Centered(患者中心)」という表現に対して、かえって疎外感を覚える患者が存在するという指摘がなされました。中心に置かれることは、同時に、自らが決める側ではなく配慮される側に位置づけられることを意味しうるためです。
本会の結論は、患者・市民を医療・研究の対象や中心としてではなく、共に医療と研究を進めるメンバーとして迎え、安全な体制のもとで十分なコミュニケーションを取り、共通の目標に向かって歩みを進める、との合意に至りました。
■ 6項目の国際提言
提言1 受益者を単一化しない
Design PPIE for layered benefit, not a single beneficiary.
提言2 「中心」から「共に歩むメンバー」へ
Move from patient-centred to partnership.
提言3 参画を支える基盤に投資する
Invest in the infrastructure that sustains involvement.
提言4 届きにくい声に届く設計を行う
Design outreach that reaches the voices least likely to be heard.
提言5 公的情報基盤をPPIEのインフラとして位置づける
Recognise public information platforms as PPIE infrastructure.
提言6 安全な協働の条件を明文化する
Codify the conditions for safe collaboration.
各提言の詳細および全発表の要旨は、添付の開催報告書をご参照ください。
■ 開催概要
第81回国連総会併催科学サミット2026 公式採択プログラム/Science Summit 2026
名称:世界のアレルギー医療・研究における患者・市民参画(PPIE)推進シンポジウム
併催:アレルギー疾患医療連携研修(2026年度東京都アレルギー疾患医療拠点病院事業)
開催日時:2026年9月12日(土)15:00~17:30(現地開催)/2026年9月19日(土)動画放映
会場:慶應義塾大学信濃町キャンパス 北里記念医学図書館2階 講堂 + オンライン(ハイブリッド)
主催:慶應義塾大学病院アレルギーセンター/NPO法人ケイロン・イニシアチブ
言語:日本語(ZOOM配信のみ英語への同時通訳あり)
■ 登壇者・座長(敬称略・登壇順)
鳴海 覚志 慶應アレルギーセンター(KAC)センター長/小児科 教授
遠藤 直幸 東京都保健医療局 健康安全部 環境保健衛生課
冠城 祥子 慶應義塾大学病院 小児科 助教/KAC事務局長
加畑 宏樹 慶應義塾大学病院アレルギーセンター 副センター長/呼吸器内科 専任講師
高宮城 冴子 慶應義塾大学病院 皮膚科 特任助教
矢野 万紀子 慶應義塾大学病院 小児科 助教
入江 美聡 慶應義塾大学病院 呼吸器内科 助教
宮田 純 慶應義塾大学病院アレルギーセンター 副センター長/呼吸器内科 専任講師
足立 剛也 埼玉医科大学総合医療センター 皮膚科 准教授/NPO法人ケイロン・イニシアチブ 理事長
渡部 沙織 東京大学医科学研究所 特任助教
小川 靖 大阪大学 経営企画オフィス リサーチ・マネージャー/准教授
武川 篤之 認定NPO法人日本アレルギー友の会 理事長/SPfAD研究会 代表
落合 利穏 サノフィ株式会社 渉外部 部長
福永 興壱 慶應義塾大学病院 病院長/呼吸器内科 教授
■ 添付資料
開催報告書(速報)/第81回国連総会併催サイエンス・サミット2026 公式採択プログラム
d57512-41-6b78caa7ddba58570f417b06b4a97cbe.pdf
■ 掲載画像
いずれも2026年9月12日、慶應義塾大学信濃町キャンパスにて撮影。

写真1:登壇者・関係者による集合写真

写真2:パネルディスカッション「PPIEは誰のためのものか」

写真3:会場(慶應義塾大学 北里記念医学図書館2階 講堂)ハイブリッド開催
■ 協力
株式会社メディプロデュースは、NPO法人ケイロン・イニシアチブの活動に協力し、本セッションの準備・運営の実務の一部を担当しています。海外研究者のフェローシップ・研究費では賄い切れない家族・パートナーのライフサポートにつながることを願っております。
https://www.mediproduce.com/service/otherbusinesses_csr/
https://www.cheiron.jp/partner
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