【「エンジニア生活」・技術人 Vol.21】ストレージに対するファンを作る——ネットアップ・三好慶太氏
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三好氏はもともと航空会社に勤務していた。学生時代も、航空会社の社長に、大学でホテルの経営学を学んだ人が多いことを知り、ラスベガスの大学へ進学。そこでホテル経営について学んでいる。そんな氏がエンジニアに転職したのは、航空会社時代に空港のシステム担当になったことがきっかけだったという。「言葉を超えて一緒にシステム設計を行なうエンジニアのコミュニケーションがうらやましく思えたんです」。三好氏はネットワークに特別な知識などがあったわけではないが、学生時代から培った語学力を活かして、その後通信の企業へ転職。エンジニアとしての経験を積んだ。ネットアップに転職したのは昨年2月のことだ。
米NetAppは1992年の創業以来、ストレージとデータ管理に特化してビジネスを拡大してきた、この分野のプロフェッショナルだ。「数年前にはインターネットが大きく変化していた時期がありました。そのときは、新しい技術が次々と現れて、使い方や提供されるサービスが変わっていった。ストレージの分野では、それがちょうど今ではないかと思います」。現在ストレージに来ている波は、VM Wareを含めた仮想化だ。サーバの仮想化が脚光を浴びるなか、サーバだけでなくストレージも仮想化することでより柔軟で効率の良い運用が可能になる。同社でもハイエンドの「FAS6000」のようなものから、100〜1000人規模の中堅企業向けの「FAS2000」まで幅広くストレージシステムを用意。専用OSである「Data ONTAP」によって仮想化に対応している。実際にストレージの仮想化事例も増えてきているという。同社もワールドワイドの展開のなかで、日本には力を入れている。
国内で特に多いのは外資系企業での事例だ。すでに米国などの本社で仮想化を行ない、効果が出ているため、国内での導入も進む。そんなパターンが多いのではないかと三好氏は指摘する。導入事例も増えて、投資に対するバックも明確になってきている。「顧客にとっても新しい技術のよるベネフィットがあり、ベンダーとしてもそれを提供する喜びがある。魅力的な時期ですね」。
■指名買いされるストレージ
同社の強みの1つは使いやすさだ。たとえば、仮想化ストレージのボリュームを増減したいときに、同社製品であれば社内の担当者などが簡単に変更することができる「フレキシブルボリューム(FlexVol)」といった機能が備えられている。「機能としてボリューム変更ができる製品はたくさんあります。しかし、簡単にというとあまりない。結局変更しようと思うとベンダーのエンジニアを呼ばなければならなかったりするのです。時期によって使うボリュームが変わる部署があるケースなどもあります。ちょっとした変更ができるというのは非常に便利なんです」。
こうした使い勝手の良さを評価する「同社のファン」もいるという。「システムの管理者というのは忙しい。たくさんある仕事のなかで、ストレージの管理も負担になっています。そうした管理者が『ネットアップは使いやすいし、管理が楽だ』といって導入してくれる。こういうファンがいるのが何よりもうれしいです」。なかにはネットアップ製品導入のために、3年もかけて社内で稟議を通したという熱烈なファンもいたという。海外の拠点ではすでにネットアップを導入していて使っていたのに、日本に来たら別のストレージが入っていた。しかし、どうしてもネットアップ製品を使いたくて何度も会社に掛け合い、ついに導入にいたったというのだ。三好氏も「本当に喜んでくれていて、私もうれしかったです。導入の説明にも思わず力が入りましたね」と笑う。
こうしたファン作りこそが自身のミッションなのだと三好氏はいう。「製品が優れているのは大事ですが、それだけでは会社は大きくなりません。使ってくれるユーザーがいるからここまでこれたんです。ですから、使い勝手の良さや導入のメリットをきちんと伝えて、さらにファンを増やしていくことが重要だと思っています」。
■信頼性をソフトウェアで担保する
すべての製品で単一のアーキテクチャを採用していることも、使い勝手を向上させている。「すべて同じアーキテクチャを使っているので、製品を入れ替えたり、別の用途で新たに製品を導入するときも使い勝手が変わりません。小さな部署や用途から導入を始めて、業務や用途が拡大したときにもそのまま拡大できるんです。用途ごとに特化した製品だと、製品が変わるたびに使い方も変わるため、毎回覚え直しになってしまう」。
単一のアーキテクチャを採用していることで、開発コストも抑えられる。用途ごとに異なる製品となっていると、新たな製品を開発する場合には、個別に開発コストがかかってしまう。だが、単一のアーキテクチャであれば、そこに力を集中できる。抑えたコストは製品の価格を下げることで顧客に還元する。こうした良いサイクルを生み出せるのだ。
また、使用するハードウェアも特別なものを使っていない。「ハードウェアに依存せず、ソフトウェアで管理しているんです。だから、仮に一部のハードウェアが壊れたとしても、システム全体としては正常に動くようになっている。信頼性や品質を、ハードウェアではなくソフトウェアで担保しているんです」。特別なハードを使っていないので、製品ごとのハードウェアの信頼性、品質も一定に保つことができる。業界標準の仕様の製品を使っていれば、仕様変更への対応も楽になる。ユーザーにとっても、ベンダーにとっても汎用性が高く、メリットのある製品を作っていけるのだ。
■増加し続けるデータにストレージは何を供給できるか
三好氏は現在、さまざまな顧客のシステムを見る機会が多く、「仮想化した方がいい」と思うケースもたくさんあるという。少なくとも現在は仮想化が有効なケースが多いフェーズであると述べるが、一方で仮想化が絶対ではないとも指摘する。
「ユーザーにとっての目標はストレージを買うことではありません。ビジネスとして必要な条件を満たすためにストレージを買うわけです。今はCPUなどの性能も上がって、仮想化でメリットを出すのに必要な条件が揃ってきたところなので、仮想化が有効なケースが圧倒的に多いですが、場合によっては単一のシステムの方が有効なケースも考えられます。投資効果が出ないのであれば、フィジカルサーバを提案する必要もあると思います」。
では、三好氏が考えるストレージのあり方とはどんなものなのだろうか。氏は、ストレージのあり方というよりも、データをどう活用するかに関わってくるのではないかと述べる。「ネットワークのトラフィックは年々増加しています。つまり、データの総量は確実に増えていっている。そうすると、問題はそれをどこに置いて、どう活用するかだと思います。データユートピアというような社会があるとしたら、おそらくどこでもデータを取ってくることができる環境でしょう。ストレージにとって重要なのは、それを実現するために何を提供するか。たとえばそれは速さかもしれないですし、あるいはアクセスのしやすさかもしれない。そうしたデータの供給の面で、新しい技術が出てくるのではないでしょうか」。
ユーザーにとって本当に必要なものは何か。それを理解して、解決のための方法として製品を提供する。三好氏の行なう導入支援といった仕事も、ネットアップ製品の使い勝手の良さの一部なのかもしれない。
《小林聖》
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