【「エンジニア生活」・技術人 Vol.25】意識しないで済むセキュリティを浸透させる——ソニックウォール・奥山剛央氏
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ソニックウォールはUTM(総合脅威管理)を中心として、SSL VPNやEmail Security製品などを扱う総合セキュリティベンダーだ。これまでは中小企業を対象とした製品が中心だったが、昨年11月に新たにエンタープライズクラスのシリーズ「SonicWALL E-Classシリーズ」をリリース。大企業も含めた、すべてのマーケットセグメントに対応できる製品ラインアップを用意している。16個のCPUを搭載する「SonicWALL NSA E7500」をはじめとしたUTMでは、複数のCPUを搭載することで処理速度を向上させ、遅くなりがちなスループットを高速化している。また、さまざまなセキュリティ機能を統合したUTMながら、高いカスタマイズ性を確保しており、ユーザーが任意のアプリケーションを指定してフィルタリングをかけるといった設定も可能だ。
「IT、特にネットワークセキュリティが社会人としての僕のコアになると思っています。この分野の知識やスキルを磨いていきたい」。奥山氏は自分のこれからのキャリアについて、そんなふうに語る。だが、経歴だけ見れば、なぜエンジニアという職業を選んだのかと疑問さえ感じさせる。「教育関係に行くというのも考えたんですけどね」と、奥山氏は就職した2002年当時のことを振り返る。しかし、結局は未知の分野に飛び込むことを決めた。「新しいものがどんどん出てくる分野ですから。やっぱり新しいことをやるのは誰でも楽しいじゃないですか」。
■常にグッドレスポンスを求められるプリセールス
まったくの未経験ながらエンジニアとしてスタートし、いくつかの企業で経験を積みながら、現在の会社に転職してきたのは2006年のことだ。「実は全くの偶然ですが、最初に就職した会社でもソニックウォールの製品を使っていたんです。セキュリティという分野は今後伸びていくだろうとは思っていましたが、当時はまさか自分が入社することになるとは思っていませんでしたね」。
プリセールスエンジニアである現在の奥山氏の仕事は、さまざまな製品の販売サポートだ。技術面で代理店などをサポートすることもあれば、セミナーなどで解説をすることもある。場合によっては自ら営業先に説明に赴くこともある。
「プリセールスは製品を買ってもらう立場ですから、グッドレスポンスが求められます。何かを買いたいと思っている顧客にタイムリーに情報を出さないと、購買意欲が冷めてしまったり、ほかのベンダーに流れていってしまう。それを防ぐのもプリセールスの役目です」。
とはいえ、即座に回答を出せるものばかりではない。期待どおりの性能が出なかった場合には、検証を行なわなければならない。考えても考えてもわからないケースもあるという。「でも、1〜2時間悩んでダメなら、6時間かけてもいいアイディアは出ません。そういうときには、ほかのSEなどにメールを出して聞いてみる。1人で仕事をしているわけではありませんから」。
今でこそそうしたやりとりにも慣れた氏だが、入社当時はメール1本打つのも四苦八苦だったという。同社はワールドワイドで展開する企業。米国の本社やそのほかの海外拠点のSEに連絡するのも日常茶飯事だ。入社の際の面接も、海外の担当者が電話などを使って行なっているという。英語は仕事の上で必須だ。「入社のときは面接官に何を聞かれているかわからないくらいでした。質問を聞き直してなんとか理解したら、今度は答え方がわからない(笑)」。2年間の業務経験の中で、コツコツと英語を上達させていき、現在では英語でのミーティングなどもこなすようになっている。さらに円滑なコミュニケーションのために、現在は個人的に英会話教室にも通っているという。
また、常にタイトに的確な回答を求められる職業柄、いつでも仕事のことを気にかけているという。「休日でも、メールの返信が来ていないか気になって、外出先でもついスマートフォンでチェックしていたりします。それを妻に見られて『また遊んでるの?』なんて言われたりしますね(笑)」。
■趣味と仕事が共存する“ITルーム”
熱中しやすい性格でもあるのか、仕事を続けるうちに、奥山氏自身もPCへの興味が増していったという。今では自宅に“ITルーム”と呼ばれる部屋まで作り、小型ラックを置いて、そこに6個ものサーバを設置しているほどだ。
「最初は趣味で作り始めたんです。『家で自分のメールアカウントを作れたら、自分でメンテナンスできるし、容量も100GBとか自由に設定できるな』とか、『SSL VPNを入れてデータサーバ化すれば、世界中どこにいてもアクセスできるな』とか、そういうところからやり始めた。でも、だんだん仕事に浸食されてきて(笑)」。高速の光回線を独占できる環境で、機材も好きなようにセットアップできる。実際、検証をするために自宅に機材を送って帰ることもあるという。
自宅でサーバやネットワークを構築するなかで気づくものもある。「うちの妻は、セキュリティなんてまったく考えていないんです。だから妻にセキュリティを守らせることができたら、僕の家のセキュリティは万全になる。そのためにはどうやったらいいんだろうと悩むなかで、ユーザーがどうセキュリティの設定をして、何に悩んでいるかに気づくことがあるんです」。
この状況は、奥山氏の家庭だけの課題ではない。企業が今置かれている状況も、同じなのだ。
「ネットワークの仕組みや中身を知らなくても、ネットを使っている人はたくさんいます。ITリテラシーがそれほど高くないところにも、すでにネットが浸透しているんですね。そういう人たちにとってUSBメモリーを使ったり、あるいはP2Pソフトを利用することは『便利なんだから当たり前』でもある。僕らからすれば、仕事で、なくしやすいUSBメモリーを使ったり、怪しいP2Pソフトを使うこと自体が非常識ですが、それは我々の理屈でしかない。便利だからと使ってしまう人をどうやってきちんと守るかが、今企業に求められているセキュリティだと思います」。
負担という面でも今のセキュリティは「重い」と奥山氏は指摘する。アンチウィルスソフトにスパイウェア対策ソフト、脆弱性をフィックスするためのパッチをあてる手間、それを常に最新版に保つための常駐アプリケーション……端末を守るためだけでも、これだけのソフトや手間が必要になる。たくさんのソフトが常駐する結果、PCの動作は重くなる。また、セキュリティポリシーを決め、それに沿ってたくさんのユーザーを管理する企業側の負担も大きい。
「セキュリティの理想は、誰も意識しなくても守られているという状態だと思うんです。そのための1つの答えがゲートウェイセキュリティだと考えています。ネットワーク自体にセキュリティを設定して、つないではいけないものは自動的に拒否するようにする。ネットワークを介して入ってくる脅威を、上流で集中管理する。我々は、企業のセキュリティルールまでは踏み込んでいけない部分がありますが、ネットワークセキュリティを提案することで、ルール作りの手伝いをしたり、負担を軽減していくことができると思っています」。
■最高のセキュリティは「意識されない」もの
プライベートでもどこかで仕事につながっているように見える奥山氏。気の休まる暇もないのではないかと思ってしまうのだが、奥山氏は「ある意味一番幸せなこと」という。「今の趣味と仕事が共通しているということですから。たとえば、仕事で覚えたいろいろな機材の設定や使い方を、家に持ち帰って反映することもある。逆に、自分が趣味で調べたことを仕事に反映させることもできる」。
また、一方で仕事にだけ集中し続けることはできないともいう。「100%仕事に集中していても、ふと行き詰まることはあります。そういうときに、気持ちを切り替えるための何かを持っておくことが大事だと思うんです。1〜2時間みっちり集中して仕事をして、それでもうまくいかないときは、パッと切り替える。そうすることで、仕事がすごくはかどるようになります」。
奥山氏にとっての気持ちの切り替えアイテムは、マンガと飼い猫だ。マンガを読んでいるときや、ネコと遊んでいるときは、仕事のことはすっかり忘れる。ほかのことを何も考えずに没頭することで、頭をリフレッシュして新たなアイディアが生まれることもある。切れてしまった集中力を取り戻すこともできる。奥山氏の“ITルーム”には、PCなどのほかに、大好きなマンガが置かれている。飼い猫の“アラバマ”が遊びにくることもあるという。趣味と仕事が上手に共存している“ITルーム”は、奥山氏にとって最高の環境なのかもしれない。
そんな氏の夢は「日本と違う文化の国に住んでみること」だという。「日本でも外国の情報を知ることはできますが、実際に住んでみないと文化や生活まではわかりません。なので、数年とか数十年というスパンで住んでみたいですね。気に入ったら永住してもいい」。
もともと地方出身で、だだっ広いところで暮らしたいと語る奥山氏。「森林の中に100Mbpsの回線引いて仕事なんていうのもいいですよね」と笑いながら語る。新しいことへの強烈な好奇心。仕事でも趣味でも、奥山氏を動かしているのは、そんな未知へのワクワク感なのではないだろうか。
《小林聖》
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