【テクニカルレポート】動画像符号化の新規格HEVCに向けた高効率な重み付き画素値予測技術……東芝レビュー
ブロードバンド
テクノロジー
注目記事
-
瑞原明奈選手や伊達朱里紗選手がアクリルスタンドプレゼント(PR))
-
東芝、WQHD(2,560×1,440ピクセル)液晶搭載の13.3型Ultrabook「dynabook KIRA V832」
-
「東芝メディアクリエイト」を名乗る不審な取材依頼

2 HEVCの概要
JCT-VCは,2010年にHEVCのひな形となるテスモデル(HM:HEVC Test Model)を策定してから,約3年をかけてHMの完成度向上を進めてきた。2012年7月にISO/IECのMPEGからHEVC国際規格草案が発行され,2013年1月に最終国際規格草案が発行された。今後,スケーラブル符号化や多視点符号化への拡張が行われる予定である。
HEVCは,携帯機器から高精細映像機器までの幅広い応 用機器を想定し,スーパーハイビジョン(Super HD)級の解像度まで対応している。また,フレームレートをスケーラブルに変更する時間スケーラビリティへの対応や,ランダムアクセス機能の拡張などが行われ,現行規格から機能的にも改良が図られている。技術の組合せを定義するプロファイルとして,当面は8ビット信号を扱うMainプロファイル,10ビット信号を扱うMain10プロファイル,及び8ビット信号の静止画像を扱うMain Still Pictureプロファイル,の三つが定められている。HEVCの処理構成は,H . 264/AVCと同様,動き補償予測と直交変換を用いたハイブリッド符号化を踏襲しており,個々の技術を高解像度向けに拡張する形で,圧縮効率の改善を実現している。大別すると,動き補償予測,画面内予測,直交変換・量子化,逆量子化・逆直交変換,ループフィルタ,及び可変長 符号化の六つの処理から成る(図1)。
3 圧縮効率改善技術
ここでは,当社が開発しHEVCに向けて提案した圧縮効率改善技術について述べる。
3.1 WP技術
WPは,当社がH.264/AVCの標準化活動時から継続的に開発を行っている技術であり,既に様々な映像機器で利用され ている。一般的なハイブリッド符号化では,過去の画像からの動きを追跡して現在の画像にコピーする動き補償予測を用いることで,時間方向の画像の冗長性を削減している。WPは,動き補償予測された後の予測画素に対して,式(1)で表される乗算型の重み係数Wと加算型のオフセットOを用いて画素補正を行うことで,単純な動きの追跡だけでなく,画面間の時間的な明るさの変化を効率良く予測できる技術である(図 2)。
式(1):P(t)=W×P(t -1)+O P(t):時刻(t)における画素値
WPが効果的な映像として,映画やドラマなどで頻繁に用いられる白や黒へのフェードアウトシーンなどがある。
H.264/AVCでは,明示的モードと暗黙的モードの2種類のWPモードが導入されている。明示的モードは重みパラメータをエンコーダで導出し,その情報をデコーダ側に伝送するモー ドであり,画像に適した任意のパラメータを設定できるメリットがある。しかし,パラメータを伝送するためのデータ量が増加するなどのデメリットもある。一方,暗黙的モードは,画像 間の時間距離比を利用してパラメータを一意に導出するモードであり,パラメータをデコーダに伝送する必要がなく,データ量を節約できるメリットがある。しかし,双方向予測でしか利 用できないデメリットがある。
WPはHEVCにも導入されており,H.264/AVCと同様に時間的な画素値変化を効率良く予測することが可能になっている。HEVCへのWP導入に向けて,当社は,重みパラメータを1パスエンコードで算出する手法やパラメータのデータ量を削減するための予測手法を提案し,H.264/AVCからの更なる改良を図っている。
ここでは,HMに用いられている重みパラメータの導出手法について述べる。画素値の変化の傾きに対応する重み係数 と,重み係数を乗じた際の誤差を補正するオフセットを,二つ の画像から算出するため,式(2)で示すαブレンディングの枠組みを用いる。
式(2):P(t)=α(t)×P(t -1)+(1-α(t)×C α(t):時刻(t)におけるブレンド比率 C :ブレンディングの目標画素値
画像特徴量として画像を周波数成分に変換した際の直流成分と交流成分を算出し,これらの変化の度合いを比較するこ とによりα(t)を算出する。二つの画像の交流成分の比率により重み係数を算出した後,二つの直流成分と重み係数を用いてオフセットを算出する。ここでは,直流成分として画像の平均値を用い,交流成分として標準偏差を用いる。
一般的な自然映像に,白・黒方向のフェードアウト・フェードイン効果を加えて評価映像を作成し,開発した重みパラメー タの導出手法を用いたWPを評価した(図 3)。WPを適用しない場合と比べて,同一画質で最大60%を超える符号量が 削減された。このように時間的な画素値変化を伴う映像に対して,開発手法は極めて効果が高いことがわかる。
同一ビットレートでのWP適用ありなしの復号画像の比較を図4に示す。開発手法による画質(c)が,WPを適用しない映像(b)と比べて大幅に改善されていることがわかる。
《RBB TODAY》
特集
この記事の写真
/