クラウドサービスのQoEに貢献――NECの「通信速度を瞬時に推定する技術」
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そんな中、8月にNECが「インターネットやモバイルネットワークの通信速度を瞬時に推定する技術」を開発したと発表した。この技術の開発に携わった中央研究所 主任研究員 中島一彰氏、主任 大芝崇氏に、技術の特徴や応用について聞いた。
●ターゲットはCではなくB
現在、IT系のメディアでは、スマートフォンの新機種や新サービスのスピード計測の比較記事などが増えており、個人でも計測アプリを使って試す人も増えているが、NECの技術のターゲットは、エンドユーザー向けではなく、サービスプロバイダーや通信事業者だという。
中島氏によれば、「NECとしては、アプリや計測サイトでのビジネスモデルは考えていません。この技術はNECのクラウドサービスの品質管理やQoEへの応用を目的に開発が始まったものです」とのことだ。
NECでは、この技術の事業化も視野に入っており、その対象はあくまで企業や事業者でありB向けのビジネスを考えている。基本となるビジネスモデルは、サーバーハードウェアに計測サーバー・端末側ソフトウェアを事業者に販売あるいはシステム構築を提供する。さらに、「計測サーバー機能のAPI提供、既存サービスやアプリに組み込むためのライブラリのライセンスなども検討中です。詳細は未定ですが、2014年度には正式に事業化すべく、現在はパートナー企業などとフィールド実験を進めています」(中島氏)だそうだ。
具体的にどのような事例が考えられるだろうか。大芝氏は4つの例を挙げて次のように説明してくれた。
「まず、企業やサービスプロバイダーが、社員や利用者の端末を定期的に計測したり、モニタリングすることでサービス品質の向上に役立てることができます。次に、通信速度によってデータを圧縮したり、サイズや転送レートを調整することも可能になります。3つ目は、Web閲覧、チャット、動画視聴などが現在快適に利用できるかといった情報を調べることができます。これは、ユーザーの端末に、信号機のような色でわかるようにしてもよいでしょう。最後は、通信事業者のトラフィックオフロードです。一般には3Gより無線LANが速いとされていますが、実際にはチャネル干渉やその他の理由で、速度がでないことがあります。素早く計測ができればこの切り替えを最適化できます」。
●背景:実測方式の問題点
次に、そもそもなぜ実測するのではなく、推定する技術なのか。そのあたりを聞いてみた。
「精度では実測値に及ばないかもしれませんが、この技術を開発した背景には、HTTPを利用して大きなファイルの上げ下げを伴う実測方式は、通信速度をすぐに把握できないという欠点があります。たとえば、LTEの圏内のはずなのに動画視聴の読み込みに時間がかかったり、アンテナ強度を見て安心してWebアクセスしたが、実際には混雑しており表示に時間がかかったりということがあると思います」(大芝氏)
確かに、駅のホームや移動時間などでの利用では、いちいちサイトに接続したりアプリを起動するのは面倒だし、あまり現実的ではない。事業者側がモニタリングして可能な調整をしてくれたり、最適処理をしてくれれば便利だろう。
そのためには、実測するよりも短い時間で一定の精度がだせる方法が必要になる。
●速度を推定する技術の原理
この問題に対して、NECの技術は小さいサイズのパケットを複数、等間隔に、段階的にサイズを増加させることで、通信回線の速度を計算により推定するという方式を開発した。つまり、送信サーバーは一定間隔で、送信レートが徐々に増加するパケットを送信していることになる。途中の回線のどこかで送信レートが通信速度を上回ってしまう(ボトルネックリンク)と、ルータでパケットが蓄積され送信間隔に遅れが生じる。受信側(端末)では、この遅れが発生するポイントを検出し、送信レート(パケットサイズ)に対応した遅れ具合などから速度を計算するそうだ。
このような段階的な分割パケットで推定すると、「推定時間は数百ミリ秒というファイル転送方式に比較して1/40という短時間で済みます。パケットの総量も数十KB程度とファイル転送方式比で1/180とります」(大芝氏)とのことだ。
なお、計測のプロトコルはUDPを利用する。それより上のレイヤのプロトコルでは、ネゴシエーション、ハンドシェーク、プロトコルスタックのオーバーヘッドなどによって等間隔でのパケット送出が不可能だからだ。反面、UDPはエラー時の再送などが行われないなどパケットロスの問題もある。また、送信間隔によって、測定できる上限が決まってしまうので、測定前に回線種別や仕様上の帯域など把握しておく必要もある。この技術では、ソフトウェアによってこれらの問題に対応している。
●測定精度と特徴
肝心の測定精度だが、研究開発した特別な計算アルゴリズムによって、実測値に対して80%の精度が検証されているという。10~20%の誤差と考えるとあまり高い精度と思えないかもしれないが、中島氏によれば、「実測値でまったく同条件で複数回計測しても、計測値にそれくらいの誤差は出ます」といい、実測値に近い精度を出せているといえるそうだ。
計測時間が短くネットワークへの負荷が少ないことは、ユーザーの端末にとってもメリットがある。それはバッテリーの消耗が計測によってほとんどないということだ。NECの比較実験では、1分ごとに30分間の計測を行っても、画面をONにした待ち受け状態と同じ程度しかバッテリーを消耗しないという結果が出ている。
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