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【木暮祐一のモバイルウォッチ】第55回 国産メーカーの再起となるか? ソフトバンクによる日米共通スマホの開発

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孫正義氏
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■国産メーカー、ベンダーの救世主となるか

 記者会見では、シャープの代表取締役社長・高橋興三氏が登壇し「シャープはスマートフォン事業の核となる通信技術を重要な要素として位置づけている。モバイル端末だけでなく、白物家電との連携や自動車のインフォテインメントなど、インフラも含めて広範なアプリケーションに高速通信技術が関わっている。当分野で重要なポジションを築くためには日本だけでなくアメリカでの挑戦が不可欠。今回ソフトバンク/スプリントと組んで、一緒に米国市場で戦えることで胸が高鳴っている」とコメントしている。

 今後、あらゆる家電製品が通信する(IoT)という時代を迎えるにあたって、日米という大きな市場に販路を持つことは非常に重要なこととなる。

 今回、日米共通スマートフォンを開発するに当たって、シャープを最初のパートナーとしたことに関して、ソフトバンクモバイル、マーケティング戦略統括部 統括部長の田原眞紀氏より「液晶技術のノウハウなど心強いパートナーである」という理由からシャープと組むのがベストという発言も出たが、その背後には孫正義氏のシャープへの恩義もあったといえそうだ。

 孫氏は学生時代、1日ひとつ発明すること自分に課していたことは有名な話である。その膨大なアイデアの中で孫氏がこれだと感じた発明が「電子翻訳機」。この発明を評価し、出資してくれたのがシャープで、これを元手に1億数千万円の資金を作り、ソフトバンクの起業に充てている。その後も、ソフトバンクの事業拡大で銀行融資を受ける際に、背後でシャープが孫正義氏を支援したと言われている。ソフトバンクとシャープが深い縁にあるのはこうした長年の恩義によるところが大きいが、シャープによる日米共通グローバルスマートフォンの開発をまずは第一弾として、今後国産メーカーによる第二弾、第三弾の製品開発にも期待したいところである。

 今回のAQUOS CRYSTALの発売に合わせ、アプリ定額取り放題サービスの「AppPass」を展開することも発表している。月額利用料金370円を支払うことで、ゲームやビジネス系、エンターテインメント系など様々なアプリが利用できる。支払いはキャリア課金で対応する。またアプリ内課金で提供されるゲームのオプション用として「AppPass」利用者には毎月500円分の「AppPassチケット」がプレゼントされアプリ内課金で利用できる。フリーチケット分の500円は月単位でリフレッシュされ、使わなかった場合の繰り越しはできない。500円を超過した利用料金はキャリア課金で支払いができる。「AppPass」はソーシャルゲームの普及も意識したプラットフォームとなっているようだ。

 アプリ定額取り放題サービスといえば、NTTドコモの「スゴ得コンテンツ」やauの「スマートパス」が先行していたが、ソフトバンクはこれを日米両国で展開する。このサービスのプラットフォームも米スプリントとの共同開発によるもので、互いがビジネスの主戦場とする日米地域のスマートフォンユーザーに高付加価値なアプリサービスを提供することを目的としている。AQUOS CRYSTALには専用アプリの「AppPass」がプリインストールされるほか、今後、ソフトバンクの4Gスマートフォンにもファームウェア更新で順次提供を広げていく予定としている。

 国内のスマートフォンアプリ開発ベンダーにとっても「AppPass」を通じ米国進出をこれまで以上に容易に果たすことが可能になるかもしれないし、逆に米国のメジャーサービスがソフトバンクのスマートフォンを通じて日本でも人気を博すチャンスとなるかもしれない。

 端末メーカーが独自に製品を製造・販売し、好みの通信キャリアのSIMカードを組み合わせて利用するオープンな通信市場に対し、日本や米国は通信キャリアが独自に端末を調達して、キャリアを通じて回線契約とセットで端末を販売するほうが一般的だった。1人1台以上の普及率となった現代の成熟市場においては、通信キャリアでさばける端末数にも限りがあり、コスト面で端末をキャリア自ら独自開発するメリットが薄らいでいた。こうした中で、国産メーカーが衰退し、撤退を余儀なくされたメーカーも出てくるようになった。

 しかしここで改めて、ソフトバンクは米スプリントを子会社化することで、日米共通で端末を開発・調達することにより、そのスケールメリットを活かしたコストダウンに挑んできた。従来のガラケーからスマートフォン中心の時代となり、端末プラットフォームもAndroidなどの主要OSで共通化され、ユーザーの利用するアプリも言語や習慣などの地域に応じたカスタマイズが求められるにしても、従来のガラケーの時代に比べれば使い方は世界共通となってきた。こうした時代背景も活かし、ソフトバンクはもう一度「護送船団方式」によるスマートフォン端末開発により、Appleやサムスンといったグローバルメーカーのスマートフォンに対抗できる独自製品を打ち出そうと考えているのだろう。

 スプリント買収の際に孫正義氏は「米国のモバイル市場はARPU(加入者一人あたりの月間売上高)も日本と同じぐらい高く、ユーザーも比較的高性能な端末を求めている市場であるからこそ、買収する価値がある」と述べていた。新興国や途上国の通信キャリアを買収しても売り上げはには期待できない、だからこそ米国の通信キャリアを選んだというわけだ。その米国で期待される端末こそ、日本メーカーが得意としていたハイエンド端末ではなかろうか。中国では安価なローエンドスマートフォンが大量に製造され、世界に輸出されているが、逆に日本では、本来得意とするハイエンドスマートフォンを丹精こめて開発し、それを国内や米国で販売する、そうしたチャンスが期待できる。このソフトバンクの勢いに乗って、もう一度国産メーカーが米国を中心に世界を舞台にスマートフォン開発で再起できるチャンスが巡ってくることに期待したいものである。
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《木暮祐一》

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