【インタビュー】佐々木希、悔しさを糧に……“女優”としての覚悟 | RBB TODAY

【インタビュー】佐々木希、悔しさを糧に……“女優”としての覚悟

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佐々木希『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』/photo:Naoki Kurozu
佐々木希『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』/photo:Naoki Kurozu 全 13 枚
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「評価も成長も、全て自分ではなく人が決めることだと思ってます」。

佐々木希はさらりとそう言ってのける。それは、キレイごとでも優等生発言でもなく、10代の頃から自らを他人の目にさらけ出すことを仕事にしてきた彼女の実感である。

実際、辛辣な評価にさらされることもたびたびあった。モデルとして絶大な人気を誇っていた彼女が女優デビューを飾ったのが2008年の映画『ハンサム★スーツ』。以来、モデル活動と並行して主演作を含む映画、ドラマに出演してきたが、モデルとしての活動時ほど、女優として高い評価や支持を集めてきたとは言い難い。

そんな風向きが変わったのは、昨年のドラマ「ファースト・クラス」あたりからだろうか? 視聴者がイメージする、ファッション業界に“いかにも”いそうな摂食障害を抱えたワガママなトップモデルを見事に体現し注目を集めた。

この役に関して、佐々木さん自身がモデルであるが故に、見る側もいわゆるモデルのイメージを佐々木さんに投影することで、結果的に役柄に“ハマった”と見る向きもあるかもしれない。そう思った人はぜひ、まもなく公開の映画『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』の中の彼女の姿を見てほしい。この作品こそ本当の意味で佐々木希が“女優”として評価される、ターニングポイントとなるかもしれない。

永作博美との共演による本作。故郷の奥能登に戻り、珈琲店を開いた孤高の女性・岬の姿を描いており、台湾の新星チアン・ショウチョンがメガホンを握った。佐々木さんは、岬の店の近所に暮らし、働きながら2児を育てるシングルマザーの絵里子を演じている。

「これまでとは異なるタイプの役柄で、難しい挑戦的な役でした」とふり返るが、それは単に初めての母親役のことだけを指しているわけではない。本当に難しかったのは母親という立場ではなく、絵里子の内面。子どもたちを愛してはいるが、日々の生活に追われる中で余裕を失い、子どもたちにつらくあたったり、ろくでもない男に入れあげるーー厳しい現実を前に押し潰されそうになりながらも必死に生きる絵里子を生々しく演じている。

「監督、プロデューサー、スタッフ、共演者のみなさんに教えていただきながら、何が正解なのか分からないままに葛藤してました。ただ、監督がすごく細かく演出を付けてくださり、とにかく監督に言われていることを出来るように頑張ろうとやっていました」。

当初は岬に対し、敵意をむき出しにしていた絵里子が、ある事件、そして子どもたちの存在を通して岬に心を開き、成長していく姿が印象的だが、佐々木さんはそうした成長を見せる以前の不器用な絵里子に奇妙な親しみを覚えたという。

「やらなきゃいけないことが多い中で、逃げ出したい気持ちがあって、男に甘えて逃げようとしたり、悪い男なのにその現実に向き合おうとしなかったり、すごく逃げているなと感じました。そんな弱さを隠すために強がったり、岬に対して壁を作ったり、突っかかったりする。でも私、絵里子のキャラクターが好きなんです(笑)。人間臭いというか、この不器用さがかわいいなと思います。彼女の気持ちがすごくよく分かるんですよね」。

絵里子にとっての岬のように、答えを探しながらも暗闇で道を見失いかけた佐々木さんに、現場で進むべき方向を示してくれたのは永作さんだった。

「私も不器用なタイプで、いろんなことをやろうとして、頭の中に詰め込んで現場に入ったけれど、パンクしそうになったことがありまして…(苦笑)。そうしたら、永作さんがサッと近づいてきて『自分が信じることひとつだけに絞って、あとは捨てていいから』という意味合いのことを言って下さり、その言葉に救われました。その瞬間にスッと悩みがなくなったんです。永作さんはお芝居だけでなく普段から自然体なんです。人としての器の大きさや芯の強さを持ってて――芯のある女性って強い人に見えがちなんですが、永作さんはすごく柔らかいんです。そういう女性になりたいと常々思っていたのですが、永作さんはまさにそういう理想の女性です」。

先述の絵里子に持っている親近感を語る言葉からもうかがえるが、素の佐々木さんは決して派手なタイプではない。話を聞いていると、“モデル”という肩書きやその容姿から連想されるイメージとこれほどギャップのある女性もなかなかいないだろうと思わせるような素朴さが垣間見えてくる。

「最近、キャバクラ嬢とかモデルとか、特に華やかな役が多かったのですが、私をよく知ってる友達には『普段のような素朴な感じの役もの方がいいんじゃない?』って言われるんです」。

この1年ほどのインタビューなどでもよく語っているが、仕事の量ばかりでなく意識という点でも“女優業”に大きくシフトしたと言える。原動力となったのは“悔しさ”だった。

「何よりできないこと、自分で思っていることを形に出来ないことが悔しかったんですよね。特に、女優業に向き合っていく中で『これはやるしかない!』という気持ちになりました。すると、それまで受け身で女優というお仕事をしていたのですが、向き合ってみると楽しいんです。深くて、何が答えか分かんない、そんな状態すら楽しいです」。

冒頭の「評価も成長も自分ではなく人が決めること」という発言は、話の流れの中で、女優としての自身の変化について尋ねた際に出てきた言葉である。スポットライトの下を歩き、それに対し周りは好き勝手な言葉を投げかける。彼女にとってそれはごく当たり前の仕事の一部だった。無視するのでも受け流すのでもなく、それを当然のように存在するものとして正面から受け止め、向き合う。

「この世界に入ってみると、周りからの評価は良いものばかりじゃなくて、悪いものもいっぱいあるし、以前は逃げたいと思ったこともあったけれど、いつの間にか落ち着いて聞けるようになりましたね。それは個人の意見であり、様々な評価があって当たり前だし、勉強にもなります。まだまだ、いろんなことを言われて当たり前とも思ってます。そこで良くない評価に対して拗ねるんじゃなくて、それを糧にして頑張らなきゃって思います」。

永作さんの中に感じたという理想をきっと彼女は既に手に入れている。美貌でも抜群のプロポーションでもなく、この“しなやかさ”こそが、佐々木希の最大の武器である。

【インタビュー】佐々木希 悔しさと辛辣な評価を受け止め、手に入れた“女優”の覚悟

《photo / text:Naoki Kurozu》

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