【連載・視点】合成繊維の技術で作れないものはない!成功を呼び込んだ小松精練の戦略
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
「ロロ・ピアーナも自らアパレルブランドをつくり、ショップを立ち上げて積極的なブランディングを展開してきたメーカーです。同社が防水性能を付加した冬物のアウター商品を開発していた頃に、小松精練はヨーロッパでスポーツウェア向けに高性能な透湿フィルムを提供していました。世界最高峰のウール生地に、当社の先端技術による透湿フィルムを組み合わせた、防寒性の高いセーターやジャケットの共同開発が実現したことで、以後毎年に約30万メートルのフィルムが当社から出荷されました。また生地との貼り合わせに用いる機械設備やホットメルトなども販売しました。イタリア最高峰のファッションブランドと協業できたこtで、当社の先進技術に世界から注目が注がれました」
ヨーロッパ以外の地域で小松精練が躍進している例もある。その一つが中東だ。この地域で男性が日常的に身に着ける白色の民族衣装「トーブ」は、約90%が小松精練の素材であるという。一見するれば単色の白に見えるが、その内訳は100種類を超える白色に細分化され、また生地のテクスチャーにも何十通りものパターンがある。「これだけのバリエーションを揃えることができるのは当社の他になく、後から他の国々が参入したとしても、恐らく追いつけるメーカーはないと思います」と池田氏は自信を持って言い切る。
マーケティングの観点から市場を入念に分析しニーズを巧みに捉えながら、先端技術を多様に展開できることが小松精練の大きな強みだ。それは例えば「ハンカチとして高い評価を得た素材をアウターウェアに、あるいはブラウスの生地をスキーウェアへと改質・改変できること」だ池田氏は説く。例えば、イタリアでは高級ベッドシーツの素材は「麻」と相場が決まっているが、天然の麻は取り扱いが難しい素材でもある。「麻の質感を備えながら、より取り扱いが容易なファブリック」を求めるニーズが隠れていることを、入念なマーケティング調査により掘り起こした小松精練は、通常の合繊をシルクのように優しくきめ細かな風合いに仕立てた特殊な形状保持素材「テクノビンテージBJ」を開発。これがイタリア市場でヒット商品となり、小松精練のブランドのステータスがさらに飛躍するきっかけとなった。「糸を単純に織り上げて染めるだけではなく、そこに必ず当社の強みである“テクノロジー”のエッセンスを加えながら、使う方々に“驚き”を与えるものづくり」は、同社のDNAに深く刻まれていると池田氏は胸を張る。
■マーケティング力を活かして多彩なアイデアを練り上げる
小松精練が開発する製品は衣類を起点に、様々な分野の製品に応用されている。スノーボードウェアの生地に使われている「湿式発泡素材」を例に取ってみよう。ウレタンを発泡させて細かい繊維をつくることで、外側から水を通さず、内側の水蒸気のみを通過させることで蒸れを逃がす「透湿防水」を実現した点がこの素材の注目すべきところだ。同じ素材をヘッドホンのイヤーパッドに応用したものを、ボーズをはじめとするオーディオメーカーが採用している。本革に迫る滑らかな質感を与えることができるため、日産「フーガ」の内装素材にも改変されている。これを化粧用のパフに展開すれば、より滑らかなファンデーションによるメイクができることから、これもまた高く評価されている。極めつけは、同じ素材をさらに高度化しながら吸音力を向上した素材が、新幹線N700系の連結部分のカバーの素材に採用されている。一つの先進技術を多彩な用途に広げられる発想力の原点はどこにあるのだろうか?池田氏はそれを「一つの事に真剣になれるかどうかだ」と説く。
「小松精練は『ある繊維をどのように加工するか』という、一つの事に集中しながら技術を研ぎ澄ましてきたメーカーです。だから、一つの事を極めればこそ、そこから生まれるアイデアを色々な対象に広げることができます。例えばオフィスビルの天井パネルとして、もっと安価で吸音性の高い部材が提供できないか?汚れをこぼしても繊維の中に染みこまず、浮いた汚れを簡単に拭き取れる素材をカーペットがつくれないか?合成繊維の加工技術を高度化しながら、応用できる手段を絶えず考えることから商品開発の種が芽吹いてくるものです。当社中山会長の時代から、マーケティングをベースに会社を変えていくというフィロソフィーが小松精練の中に息づいています。アイデアは無限大に広げることができます。だから、合成繊維の技術で作れないものは何もありません。」
新しく、面白い技術を探求しながら小松精練。同社が探求してきた技術や製品は、自ずとクライアントが心待ちにしてきた解決策として結び付いてきた。「現状に満足してしまう経営者なんて、恐らく一人もいないと思います。すべての経営者がお持ちであろう、『もっと新しく、画期的なものが提案できないか』という向上心に、当社の高次加工の要素技術が出会い、新しい価値を一緒に生み出していきたいと考えています」
《山本 敦》
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