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辞めて行く社員に向き合う

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去るものは追わないが、拒まない
去るものは追わないが、拒まない 全 1 枚
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 どんな会社でも、必ずキーマンの社員がいると思いますが、その人たちの動静が、必ずしも思惑通りになるとは限りません。特に中小企業の場合は、活躍を見込んでいた社員が辞めてしまったり、いくら採用しても定着しなかったり、人の出入りが激しくなってしまうことも多いと思います。

 大企業であれば、誰かが辞めてもそれをカバーする人がいるでしょうが、一人ひとりの守備範囲が広く、代わりの人間が簡単には用意できない中小企業では、人が辞めてしまうということが仕事上の大きな問題になります。

 私が、今までいろいろな中小企業とお付き合いをしてきた中で思うのは、辞めてしまう人への向き合い方が、はっきり二通りに分かれるということです。辞めた後でも友人、知人として付き合いを続けるか、自分の気持ちを理解しなかった裏切り者として、二度と付き合おうとしないかのどちらかです。

 どちらも自社なりの人間観によるものだと思うので、それをどうこう言うつもりはありません。ただ、最近の世の中全般の傾向は、「出戻り歓迎」など、退職者との良好な関係を作ろうという企業が増えています。

 ある記事によると、インターネットサービス大手のサイバーエージェントでは、退職する者に対して、「出戻り歓迎」をメッセージとして発信するため、「ウェルカムバックレター」という施策を始めたそうです。退職者の中で、会社に大きな貢献をし、円満な辞め方をした人の中から選抜して、「向こう2年以内は、元の待遇以上で出戻りを歓迎する」という手紙を送り、「ぜひ戻ってきてほしい」という会社の意思を伝えるとのことです。



 同社では、今までも一度辞めてから戻った社員が相当数いるにもかかわらず、SNS上に「出戻りがOKになればいいのに」と書いている社員がいたため、それは会社が積極的にメッセージを出していないためではないかということから導入されたそうです。そうは言っても、辞めた人全員に戻ってほしいとは言えないので、会社として本当に戻ってきてほしい人材に絞って、レターを出すことにしたということです。

 ただ、対象を絞ることで、メッセージが伝わりにくくなったり、逆にレターをもらっていない人に、「自分は戻ってはいけない」と思われてしまうかもしれず、出戻り歓迎の文化を作りたい思惑とは逆効果を生む可能性があります。同社の藤田晋社長は、「出戻りは会社として基本的に歓迎だが、それは人による」という考え方を、どう文化として定着させるべきなのかを、未だに悩んでいて答えを出しかねているそうです。

 とはいえ、多くの人材が集まってくる大企業でさえも、このような取り組みをしているのが、今の世の中の状況です。

 実は、私が以前在籍していた会社でも、今から15年位前に、すでに出戻り歓迎を打ち出していました。当時の事情は、「中小企業ではなかなか良い人材は採用できないし、出戻りならばお互いの仕事ぶりや能力を理解しているので、それもアリではないか」ということでした。積極的に発信していた訳ではありませんが、そもそも出戻り希望の意思表示をするのは、円満に辞めた人だけでしたし、一人でも実績ができるとそれに続く人が出てくるもので、何人かの元社員が実際に戻ってきました。

 出戻ってくる人は、自社の良し悪しを認識した上で、外の世界を経験してきていますので、なじみやすさなどのプラス効果は確実にあります。また、他の社員からしても、あえて戻ってくる人がいるということは、自分の会社はそれなりに良い会社なのだと思ってもらうことができます。双方にとって悪い話はありませんでした。

 私が思うのは、二度と付き合えないような人は、できるだけ少ない方が良いに決まっている訳で、やり方を考える必要はあるものの、本人と会社の両方が合意できるなら、出戻りを認めていけば良いのではないかということです。

 辞めたことを裏切りなどと取らず、「戻りたい」と言わせる会社になる努力をすることが、一番健全な形ではないかと思います。世の中はもうとっくに変わってきています。

「中小企業の《経営論》」第6回:辞めて行く社員に向き合うこれからの形

《小笠原隆夫/ユニティ・サポート》

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