中小企業とSNS、集客に成功する正しい使い方とは? | RBB TODAY

中小企業とSNS、集客に成功する正しい使い方とは?

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大阪市立大学大学院 創造都市研究科都市ビジネス専攻 近勝彦教授
大阪市立大学大学院 創造都市研究科都市ビジネス専攻 近勝彦教授 全 6 枚
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 企業PRにLINEやTwitter、FacebookなどのSNSが積極的に利用され始めている。16年8月16日にICT総研が発表した「2016年度 SNS利用動向に関する調査」でも、SNS利用者数は17年には7000万人を超える見通し。テレビや雑誌が苦境にある中で、企業によるプロモーションの場はリアルからウェブへと拡散し続けているが、その中においてもSNSがトレンドとして注目度を高めている。

 企業PRがホームページやブログの開設、メルマガの発行だけで済んでいたのは一昔前の話。これからは中小企業でもSNSの活用が求められるが、そこにただホームページなどと同じ情報を掲載すればいいというわけではない。

 さらに、大阪市立大学大学院 創造都市研究科都市ビジネス専攻 教授の近勝彦さんは、最近のSNS一辺倒なプロモーションにも警鐘を鳴らしている。ポイントはSNSの拡散相手が既存顧客などの特定顧客に限られること、そして用途としての相性が会員サービスにあることだ。

■SNSは顧客管理や会員サービスに最適

――中小企業がプロモーションにSNSを活用するケースが増えていますが、実際に集客などに役立っているのでしょうか?

近 SNSの活用を相談される中小企業は増えていますが、一方で「せっかくSNSを始めたのにお客さんがちっとも来ない」と嘆く中小企業も意外と多いです。原因として考えられるのは、“SNSを始めさえすればお客さんが集まってくれるんだ”と勝手に思い込んでしまうことにあります。

 例えば、フリーペーパーに企業が広告を載せるとすれば、発行エリアや発行部数、読者層などを事前に確認してから広告出稿の可否や広告内容を検討していることでしょう。ところが、SNSについてはその特徴を十分に確認も理解もしないまま、開設してしまうケースが多いのです。

――では、SNSにはどのような特徴があるのでしょうか?

近 一概にSNSをひとくくりにはできませんが、大きな特徴はコミュニケーションメディアであること。そして、従来のメディアのように不特定多数を対象にしたものではなく、特定の顧客とコミュニケーションができる点にあります。そのつながりが大きく広がっていきますので、企業としては情報を口コミ的に拡散していくことが可能です。

 ただし、SNSで情報を相手がすぐ見える形で発信する場合には、自身のアカウントを「フォロワー」や「友達」といった形で登録してもらうか、相手のアカウント情報を取得しなければなりません。これは大きなハードルですが、逆に一度つながってしまえば深いコミュニケーションが可能となりますので、企業にとってはCRM(顧客管理)や会員サービスのような使い方が可能になります。


――CRMや会員サービスのような使い方としては、どのようなものがあるでしょうか?

近 わかりやすくて手っ取り早いのは、イベントやキャンペーンの告知をしたり、特典クーポンを発行したりして集客を図ることです。例えば、あるアパレルショップではLINEで友達になったユーザーに対して、期間限定の割引券を発行しました。LINEでは割引券にバーコードを組み合わせられるので、データを収集して効果測定を行えばマーケティングにも役立てられます。

 また、ユーザーの多くがSNSでスマホを使っている点も重要です。私が知っている事例では、自然素材をふんだんに使った食堂がランチ弁当を販売する際、その日のお弁当のメニューを写真付きで毎日、LINEで配信したところ、売上が2倍以上に伸びました。美味しそうな弁当の写真が届いて、それが自分の食べたいものであれば、買いに来てくれるのではないかという発想がきっかけだったのですが、午前中にLINE配信してランチの売上に結び付けられる即時的な効果はSNSの特徴といえます。

――SNSを集客に活用するには、アカウントの登録がハードルになるとのことですが、その対策にはどのようなものが考えられますか?

近 先ほど例に挙げた食堂では、常連客にLINE登録してもらっているので、CRMツールとしての利用になります。例えば、月に1回だった常連客の利用頻度が月に2~3回へと増えるだけでも、十分に売上アップに結び付けられるといえます。SNSは既存ユーザーからの口コミ、拡散によるところが中心となります。既存客の強化と、既存客の友達を集客するという活用方法が適切だと考えてください。

■強い話題作りで、SNSを口コミ拡散ツールに使う

――SNSを活用した企業のプロモーション活動としては、イベントなどを開催して、その情報を拡散させるという手法もよく耳にします。このような取り組みは、中小企業でも狙ってできるものなのでしょうか?

近 ある自動車教習所では少子化で教習生が減少傾向だったため、アイドルグループの研究生をイメージキャラクターに起用してイベントを開催し、若者層を中心に集客を図った事例があります。

 ここでポイントとなるのは、運転免許の取得を目指す層が20歳前後に多いことから、若者層が関心を持ちやすいアイドルをキャラクターに起用した点です。研究生でもコアなファンがいるのがアイドルの世界ですし、売れっ子アイドルよりも安く起用できるメリットがあります。

――キャラクターに起用された研究生とそのファン、教習上に通っている教習生などがSNSで情報を発信したということですね。研究生をキャラクターに採用したことで、“どういう教習所なんだ?”と注目を集めたことも考えられそうです。

近 とにかく話題性を高めることで、SNSでの拡散を狙った例ですね。似たような事例としては、伝統産業である竹材を扱うある社長が、スタッフとともに踊っている動画をYouTubeで公開。そのダンスが話題になり、知名度が高まったことがありました。

 マーケティング用語で購買行動プロセスを示す“AIDMA”という言葉があります。人の購買行動はAttention(注意)に始まり、Interest(関心)からDesire(欲求)、Memory(記憶)を経てAction(行動=購買)へ至るサイクルを描くという考え方ですが、まずAttentionがなければそもそも購買行動は起こりません。このAttentionにつながる1つが話題性で、先ほど紹介したのはその成功例といえるでしょう。さらにいえば、その話題性・意外性・共感性を生み出すのはイベントであり、そのイベントへの参加経験です。優れたエクスペリエンスをAttentionに使うことが望まれます。


■中国向け越境ECでのSNS活用にビジネスチャンス

――製品を扱っている中小企業の場合、ネットを使って商圏を海外へと広げることも可能です。こうした越境ECでのSNS活用という点では、どのような展開が見込めるでしょうか?

近 越境ECで最もビジネスチャンスが広がっているのは中国です。ECサイトの利用率は、日本は3%程度ですが中国では10%にのぼっています。その背景としては、中国は国土面積が広いため、気軽に買い物に出かけられないことが考えられます。中国人が観光で日本を訪れて“爆買い”していくように、中国人の日本製品に対する人気はとても高いので、中国への売り込みには大きな可能性があります。

 以前に中国人留学生が私のゼミを受講したことがありますが、彼は日本製品を中国へ輸出する会社を設立し、相当の売上を上げています。販促に活用しているのは、日本のLINEに当たるWeChat(ウィーチャット)です。

――その中国人留学生はどのようにビジネスを展開しているのでしょうか?

近 元々は日本への留学中に、ウィーチャットで中国の知人から日本製品を買って送ってくれと依頼されたのがきっかけでした。それをSNSでほかの知人にも広げたところ、相当の規模のビジネスへと発展していきました。

――ウィーチャットでつながる知人だけで、ビジネスに展開できるほどの規模に広がるものなのでしょうか? 日本では知人だけを顧客にビジネス化することは、難しいと思います。

近 中国人は人とのつながりを大事にしますので、離れた人とネットでつながることができるSNSがとても普及しており、SNSを通した知人の数も多いといえるでしょう。また、欠陥品や模倣品が広く出回っていますので、モノを買うときには知人の勧めや口コミなどを重視して選びます。このため、ECは積極的にSNSを活用できる環境だといえます。

――日本の中小企業がSNSを活用し、中国への越境ECをビジネス展開するにはどうすれば良いでしょうか?

近 SNSは個人とのつながりですから、中国のSNSのアカウントを取得して独自に展開するよりも、日本にいる中国人留学生や現地に戻っている元学生を活用する方が、より確実にビジネスとしての成功を見込めると思います。

――中国のECサイトへの出店について、中小企業にも勝機があるのでしょうか?

近 インバウンドで見た場合、以前の中国人観光客は日本のいわゆる名所を観光していましたが、最近ではガイドブックでも紹介されていない隠れた名所を訪れるケースが増えています。こうした傾向に影響を与えているものの1つがSNSです。日本を訪れた中国人観光客や、日本に滞在する中国人留学生がSNSで隠れた名所の情報を発信することで、観光ルートが徐々に変わっていきました。

 これと同じことが越境ECにも起きています。以前は日本の大手メーカーの製品が人気を集めましたが、最近ではあまり知られていない、日本人もなかなか知らないような製品が注目されています。中国向けの越境ECでは、まさに今こそSNS活用におけるビジネスチャンスが期待できるでしょう。

<Profile>
近勝彦(ちかかつひこ)さん
大阪市立大学大学院 創造都市研究科都市ビジネス専攻 教授。広島大学大学院博士課程単位取得退学後、小樽商科大学、島根県立大学などを経て現職。科学技術振興機構・非常勤研究員、東京大学研究員を歴任。専攻は情報経済学、および情報経営論。デジタルコンテンツの著作権管理に関する社会経済学的研究と、経験経済における消費者需要の変化と情報の役割についての研究を行う。共著に『集客の方程式 ~SNS時代のメディア・コミュニケーション戦略』(学術研究出版)。助成事業「おおさか地域創造ファンド」で審査員を務めるなど、さまざまな中小企業のSNS活用事業に関わる。

■ニュース深堀り!■集客に成功するSNSの正しい使い方

《加藤宏之/HANJO HANJO編集部》

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